卒園・進級おめでとうございます。自分の意思とは関係ないとはいえ、この世に生を受け、健康に、順調に成長を遂げてきた皆さん、人生の長いスパンで考えると、まだまだ「ひよこ」の時代、しかしこのひよこの時代こそ、これからの長い人生の基礎・基本が形成される大切な時、その不可逆的でお金ではけっして買えない貴重な時をこの幼稚園で過ごした皆さんには、他の誰にも負けない人間としての生きる力、生き抜く力が備わっています。これからの21世紀の日本を支える皆さんの活躍は、取りも直さず、日本の輝きにも通じるものがあります。今まで培ってきた基礎の上に、人生の中でのさまざまな事象を経験して、応用力をつけ、心豊かな立派な人に育って欲しいと思います。ここでいう立派な人というのは、世間から脚光を浴び、有名になり、お金持ちになることを意味しているのではありません。それらのことは偶然この世で通じたとしても、別の世界ではなんらの価値を持たないかもしれません。例え金銭的にそれ程恵まれなくとも、社会の片隅で光り輝いている人がいます。その人が居れば輪が和み、協力しようとする機運が生まれる、安心感があり、生きる勇気が湧いてくる、ひたむきに一生懸命生きている、そんな素晴らしい人たちです。私の若い頃は、末は博士か大臣かという、はやり言葉がありました。蛍雪の功を成し遂げた人、私財を投げ打って人のために大きな働きをした人もたくさんおられますが、それ以上に名も無く、貧しく、しかし幸福に後悔しない人生を歩んだ人がいます。 1.個人情報の保持 前はそんなことは言わなかった。おおらかであった。みんなが隣人であり、お互い助け合った。冠婚葬祭全てにわたった。しかし、いつのまにか隣人のぬくもりが消え、知らない他人が増えていった。何事にも助け合い、悲しみ、喜び合ったことが億劫になった。一つには機器の発達・普及と共に助け合うことの必要性がなくなったこと、もう一つにはストレス社会の拡大が進み、他人を思いやる余裕やゆとりがなくなった。それと共に個人情報の秘匿が言われ、ますます息苦しさを覚える人も増加した。反面、ネット社会ではそんな秘密性を、匿名を利用して、次から次へと容赦なく、暴いていく。人が人を信用しなくなった社会、会話や話し合いの全てが音声と映像で記録される社会、何でも言える社会はどこへいったのだろうか?過去にスイングしているのだろうか? 2.個性尊重の社会 過去の有名な人の中には変人扱いされ、評価されなかった人も多い。しかし今から考えると、果たしてそんなに個性が強く、変わり者だったのか。今の社会は個性の尊重が強調され、少々のことには目をつぶって見逃されていく。個性尊重も必要だが、所詮人間は人間の中でしか生きていくことができない、換言すれば、何らかの形で他人との関わり無しでは生活できないのも事実になっている。個性尊重、弱者保護も優先事項だが、今までの慣例や習慣、考え方が全て否定され、変えられるのにも違和感を覚える人も多い。先日テレビのドラマでの中で、弱者に焦点を当てることはどんな立派な正義よりも効果があると言っていたが、まさに正鵠を得ているのかもしれない。 3.真面目・正直・素直 一番評価されるべき人はこのような素質を備えている人であろう。しかしそれを逆手にとって、自分の利益を図り、立場を守ろうとする人が多い。特に人の善意や無知に付け込んで、人をだます悪人が増えたのは嘆かわしい。それがセールスの極意であるというならば、セールスや話術の曲解であろう。日本人が古来から守り続けた真面目・正直・素直な気持ちは一時にそれを悪用する卑怯者が増えたとしても、究極的には人の信頼を勝ち取り、生きることを後悔せず、喜びに変わっていくものだろう。と同時に自分のためでなく、人のために何ができるかという利他の気持ちを持つことは結局自分の反映につながっていく。最後になりましたが、皆さんの前には前途洋洋たる海原、未来が広がっています。それを無事航海していくのか、途中で沈没してしまうのかは、全てこれからの皆さんの努力や強い意志、頑張りにかかっています。人を信じ、自分を信じて荒波を乗り切っていきましょう。皆さんならきっとできます。未来が皆さんを待っています。