弥生三月、何かにせかされるように、心が落ち着かない。今までの冬の沈黙の世界から躍動の世界に変わりつつあるせいかもしれない。春の暖かい日差しのせいで、水が温み、秋から冬にかけて日本にわたってきた雁や鴨等の渡り鳥が北方に帰っていく。幼稚園では今まで寒風にその裸形を晒していた樹木が動き始めた。ボケの花、蕾がその色が分かるほどに膨らみ、その後ろの白い梅の花や正面玄関の赤い枝垂れ梅が絶頂を迎えようとしている。誰か教えたわけでもないのに、季節の時計に連動した草木の営みも、全く微動だに狂うことはない。大きな株立ち欅の根元には今年もクロッカスが一年の50週を使って一週間の艶やかな姿を見せるために可憐な黄色い花を得意気に咲かせている。何かが動く、何かが変化する月、3月。「小諸なる古城のほとり 雲白く遊子悲しむ 緑なすはこべは萌えず 若草もしくによしなし しろがねの衾の岡辺 日に溶けて淡雪流る」島藤藤村 千曲川旅情の歌より。 そして又別れの月。 「仰げば尊し わが師の恩、教えの庭にも、はや幾年 思えば いと疾し、 このとし月、今こそわかれめ、 いざさらば」。 3月は又別次元の他世界を想う月、春の彼岸の月。此岸(現世)を生きる私達にとって、彼岸は別世界。仏事供養だけでなくて、別の世界を考える月、現世にない世界を想像して、私達をユートピアの世界に誘ってくれる月、不自由と穢れに満ちた此岸を離れて、一時自由の翼に乗って彼岸の世界に浸るのもいいのかも。その意味では新しい風を呼び込む若者の月であるのかもしれない。その若者の代表者の一人、年長の皆さん、幼稚園卒園おめでとうございます。皆さんは2年、3年間、4年間、美木多幼稚園で、幼年期に経験したり学んだりしなければいけないことをほとんどすべて習得することができました。私たちは自信をもって皆さんを小学校に送り出すことができると信じています。これから始まる本格的な学業の世界では幼児期に学んだあらゆることが皆さんの栄養素となって大きな役割を果たし、ますます立派な若者となっていくことでしょう。しかしこの世はすべて順風満帆とはいかないもの、勉強で悩んだり、友達との関係で苦しんだりすることもあるでしょう。しかし決して諦めたり、早急な結論を出したりして自分を責めないでほしい。いろいろなことはどんな困難なことでもそれに立ち向かっていけば解決されるものです。どうか自分の道を着実に歩んで、悔いのない人生を過ごしてほしい。りんご、年少、年中組の皆さん、皆さんは幼稚園での1年間で大きな成長を遂げました。たくさんの友達もできました。一人でできることも多くなりました。見違えるほど強くたくましくなりました。よく頑張りました。来年も先生やお友達と一緒に美木多幼稚園で楽しく元気に過ごしましょう。保護者の皆様、この一年、美木多幼稚園に賜りましたご支援、お力添え、大変ありがとうございました。お陰さまで美木多幼稚園も37年間の歴史を38年目につなげるようになりました。私たちは精一杯幼児教育に取り組んでまいりましたが、まだまだ皆様方のご期待に充分応えることができたと言えないかもしれません。今年度の経験、体験を踏まえて、来年度も子供中心の保育を目指して、より一層精進してまいります。年長の皆さん、小学校に行っても、美木多幼稚園の事、先生の事、友達の事を忘れないでください。先生はいつまでも皆さんの味方であり、皆さんを見守り続けています。 さようなら。