9月 2013

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01 9月 2013

過去からの訪問者
ー9月のことばー

  今年も近くのお墓へ鬼籍に入った大事な大事なお客様を迎えに行った。もう何回になるだろうか。海外で生活した年月を除けば60回余り、年月の長短はあれ、一緒に同じ空気を吸った家族は祖父母と両親の4人、市役所の壬申戸籍や除籍謄本、お寺の過去帳や墓石に刻まれた名前を含めると本当に多数の人々、いわんや存在がはっきりしない人を含めると、もう手におえない。今と違って医学の進歩のない過去では、年老いた人から順番に死んでいくのではなかった。逆転現象が起きたり、幼児で命が尽きた人も数多くいて、悲しい思いをしたこともいっぱいあっただろう。しかし今となっては同じ黄泉の国で手を携えて幸せに暮らしている、少なくともそう思いたい。と同時に次にやって来る人の準備をしているかもしれない。大きな災害などがあるとその準備が間に合わないかと心配だ。ある人は「手遅れの幸せ」と言い、繁殖を終えて、生きものとしての賞味期限の切れた年寄りには「早過ぎる死」はないと公言している。時には老害として忌み嫌われることもあるが、活躍の場所を与えられて意欲的に生き続けている人も多いし、大きな社会的貢献をしている人も少なくない。個人的にはどちらの範疇に入るかわからないが、訪問者の仲間に入るのをもう少し待ってほしいと心ひそかに思っている。もちろん認知症などになって自分の存在が不安定なものになった時にはその考えは変わることもありうるだろう。そんな私がつい最近ある場所で突然声をかけられた。「失礼ですが宮下さんですか」「そうですがどちらさんですか」人を覚えていない、あるいは忘れてしまっている事を恥じて決してそんな問いかけをしないが、その時は全く不意打ちで、その顔に記憶はなかった。「Yです。録音機輸出部の」、頭の中はまだ混乱していたが、徐々に記憶を取り戻していた。「一緒に一回橋本カントリーに行ったことがあります。」その言葉は決定的であった。そう40年前二人とも平社員で私は輸出部の宣伝の仕事、彼は業務で製品輸出の仕事をしていた同僚であった。私はしばらくして30歳で会社を辞めたが、彼はその後アメリカで勤務し、日本に帰って事業部長の職責を全うして会社を辞めたそうだ。会社を辞めてもうすぐ40年、一度も彼に会ったことはなかった。もし逆の立場だったら決してわからなかっただろうし、ましてや声をかけることもなかった。若いときに彼に与えた印象は強かったのだろうか。それともこの長い年月、皮肉的に考えれば、私にはほとんど成長や進歩がなかったのだろうか、変化しなかったのか。再会を約して別れたが、不思議な瞬間であった。それから1週間ほどして別の場所で、私が勤務を続けていれば確実に同僚になる人にあった。全く未知の人であったが、話を進めていくうちに共通の知り合いが一杯いることがわかり、もちろん上記のY氏もそうであったが、私と同じように若いときに海外勤務をしていたN氏であった。私と違って当時の社長の親戚筋の人であった。なぜ立て続けに珍しい、懐かしい人に会ったのだろうか。年老いて行動範囲が狭くなったことも大きな要因だろう。さて話をもどそう。現世に戻ってきた人は今の若い人がゴキブリや小動物を見て、身の毛のよだつほど怖がるのをどう思うだろうか。ゴキブリやクモなどの小動物に囲まれて生活していたのだから間違ってもそんなものはほとんど存在しない高層階に住みたいという発想はない。人を懲らしめるのに化学兵器はいらない、ただゴキブリやクモがあればよい、と言うのもまんざら冗談でなさそうだ。飛行機から外を見ると当然雲を上から眺めている。何の違和感も感じない。しかし連れ帰ったお客様は、両親は経験があるとはいえ、ほとんどの異邦人は下からしか雲を見たことがなかった。あの上はどうなっているのだろうかと何回も考えたことだろう。そうかと言って近代科学が発達し、生活水準や衛生概念が発達した今が昔の彼らより、あるいは戦中、戦後活躍した彼らより幸せであるかと問われるとすぐに返答できない。物質文明の豊かさが必ずしもイコール人間の幸せであると思わない。人が日々働き、生活し、社会に少しでも貢献し、人として少しでもその存在を認められて幸せを感じるというか、案外日々何も感じないのが望外の幸せであるかもしれない。何はともあれ、短い帰省の旅は終わりを告げた。今年も彼の地に送り届ける大きな仕事を無事終えることができた。人生は繰り返しだとよく言われる。今の幼児たちも何年か先に同じようなことをしているのだろうか。それとも劇的な社会の変化で現世に帰る道を閉ざされているのだろうか。2学期夏休みが明けて、いつもの年と同じように、子供たちは一回り大きくなって幼稚園に帰ってくることでしょう。運動会、作品展、そして自然との触れ合いを求めての郊外での収穫体験や登山、メニューは盛り沢山です。どれも成長への大事な大事な教育課程です。今学期も教職員全員足並みをそろえて元気にさまざまなことに取り組んでまいります。1学期同様よろしくお願いいたします。